食欲にムラがある?ウンチの調子が不安定?|愛犬・愛猫の慢性膵炎とは
- 内科 循環器科 腫瘍科
愛犬や愛猫が急にごはんを食べなくなったり、嘔吐や下痢を繰り返したりすると、とても心配になりますよね。もしかすると、「ちょっと体調が悪いのかな?」と思っていた症状が、慢性膵炎のサインかもしれません。
突然の体調不良に戸惑う中、動物病院で「慢性膵炎」と診断され、どうすればいいのか分からず不安を感じた飼い主様も多いのではないでしょうか。
今回は、愛犬・愛猫の健康を守るために知っておきたい慢性膵炎について、分かりやすく解説します。
■目次
1.膵炎とは?
2.動物の種類別に見る膵炎の症状
3.膵炎の主な原因
4.診断方法
5.治療方法
6.よくある質問(Q&A)
7.まとめ
膵炎とは?
膵臓(すいぞう)は、食べ物の消化を助ける酵素や血糖値を調整するインスリンなどのホルモンを分泌する、とても重要な臓器です。
膵炎とは、この膵臓に炎症が起こる病気のことで、発症すると膵臓が本来分泌するはずの消化酵素が自分自身を攻撃してしまい、さまざまな症状を引き起こします。
膵炎には急性膵炎と慢性膵炎の2種類があります。犬は急性膵炎を発症しやすいのに対し、猫は約90%が慢性膵炎といわれています。
<急性膵炎>
急性膵炎は、突然発症し、症状が激しく現れるのが特徴です。嘔吐や下痢、食欲不振、腹痛などが顕著で、重症化すると命に関わることもあります。ただし、適切な治療を受ければ回復することもあります。
<慢性膵炎>
慢性膵炎は、長期間にわたって膵臓の炎症が続き、徐々に進行する病気です。症状がはっきりしないことが多く、「なんとなく元気がない」「食欲が落ちた」といった小さな変化が続きます。気づかれにくい分、膵臓の機能が少しずつ低下し、元の状態には戻りにくくなります。
動物の種類別に見る膵炎の症状
犬と猫では、膵炎の発症傾向や症状の現れ方に違いがあります。
犬は症状がはっきりしているため、飼い主様も異変に気づきやすいのが特徴ですが、猫は症状が曖昧なため見逃されがちです。
膵炎の主な原因
膵炎は、さまざまな要因が重なって発症すると考えられています。特に犬と猫では原因が異なるため、それぞれのリスクを理解し、日頃の健康管理に気をつけることが大切です。
<犬の場合>
・高脂肪食(脂っこい食べ物の摂取が膵臓に負担をかける)
・肥満(脂肪が膵臓の働きを妨げ、炎症を引き起こしやすい)
・遺伝的要因(特定の犬種が膵炎にかかりやすい)
・血行不良(膵臓への血流が滞ることで発症リスクが高まる)
■なりやすい犬種:コッカー・スパニエル、ミニチュア・シュナウザー、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルなど
犬の膵炎は高脂肪食や肥満と深く関係しているため、食事管理が重要です。
また、遺伝的に膵炎になりやすい犬種もいるため、リスクが高い場合は定期的な健康診断を受けることが大切です。
<猫の主な原因>
・糖尿病との関連(糖尿病の猫は膵炎を併発しやすい)
・感染症(ウイルスや細菌感染が膵臓に炎症を引き起こすことがある)
・薬剤の副作用(特定の薬が膵臓に負担をかけることがある)
■なりやすい猫種:特定の品種との関連性は低いとされ、すべての猫に発症リスクがある
猫の膵炎は、糖尿病や感染症と関連することが多いですが、明確な原因が特定できないことも少なくありません。症状が軽いため、発見が遅れることが多いのも特徴です。
<犬・猫共通の注意点>
犬・猫ともに、血行不良が膵炎の発症に関係していると指摘されています。また、手術時の麻酔後に膵炎を発症するケースもあるため、手術を受けた後は愛犬・愛猫の様子を注意深く観察することが大切です。
診断方法
膵炎の診断は、血液検査・超音波検査・X線検査などを組み合わせて行います。症状が曖昧なことが多いため、複数の検査を総合的に判断することが重要です。
・血液検査
特に膵臓特異的な酵素(リパーゼ・アミラーゼなど)の値を測定します。ただし、血液検査の数値だけでは確定診断が難しいこともあります。
・超音波検査
膵臓の炎症や腫れ、周囲の変化を確認します
・X線検査(レントゲン)
膵臓の腫れや、周囲の臓器への影響を確認します
治療方法
膵炎の治療は、症状の程度に応じて異なります。軽度の場合は食事療法や薬物療法が中心となりますが、重症の場合は入院による集中治療が必要になることもあります。
<軽度の場合(通院での治療)>
・低脂肪・消化に優しい食事への変更
・抗炎症剤や鎮痛剤の使用
・補液療法(点滴)による脱水改善
<重症の場合(入院での治療)>
・点滴による水分・栄養補給
・強い痛みや炎症を抑える薬の投与
・合併症の管理(感染症や膵臓の壊死など)
<劇症の場合(特に重篤なケース)>
劇症の場合、膵臓への負担を軽減するために絶食が必要になることがあります。しかし、絶食管理は非常に難しく、注意が必要です。
絶食中に体がエネルギー不足を補おうとするスイッチが入ると、体内の脂肪を過剰に分解し始め、それがさらなる代謝異常を引き起こすことがあります。特に猫では、脂肪肝(肝リピドーシス)のリスクが高まるため、長期間の絶食は避けなければなりません。
そのため、完全な絶食ではなく、腸の動きを維持するために必要最小限の栄養を補給することが推奨されます。例えば、低脂肪の流動食や、点滴による栄養補給などが行われます。
また、絶食期間(腸を休める期間)を適切に設定することが重要です。膵臓の炎症が落ち着いたら、獣医師の指示のもとで少しずつ食事を再開し、膵臓に負担をかけない食事管理を続けることが大切です。
よくある質問(Q&A)
Q.油っぽいものばかり食べなければ、膵炎の心配はありませんか?
A.油っぽい食事を控えることは、膵炎の予防において重要なポイントの一つです。しかし、膵炎の原因は脂肪の摂取だけではなく、遺伝的要因や血行不良、糖尿病、感染症などさまざまな要因が関係しています。
そのため、膵炎を予防するためには、適切な食事管理に加え、定期的な健康診断、適度な運動、体重管理など、総合的な健康管理を行うことが大切です。
Q.膵炎が治ったため、愛犬の好きなフードに戻しても大丈夫ですか?
A.膵炎が一度治ったとしても、元のフードに戻すことはおすすめできません。
特に犬の場合、膵炎は再発しやすい病気のため、フードを変更すると膵臓に負担がかかり、再発のリスクが高まる可能性があります。獣医師の指示に従い、低脂肪・高消化性のフードを継続することが大切です。
また、おやつや人の食べ物にも注意が必要です。膵炎を繰り返さないためにも、愛犬の健康を最優先に考え、慎重にフード選びを行いましょう。
まとめ
慢性膵炎は、特に猫の場合症状が不明瞭で気づかれにくい病気です。例えば、「なんとなく元気がない」「下痢が続いている」といった小さな変化が見られても、すぐに病気を疑うことは少ないかもしれません。しかし、こうした症状の裏に膵炎が隠れている可能性もあるため、注意が必要です。
一方、犬の場合はフードの変更が比較的容易で、適切な食事管理が治療の一環となることが多いです。膵炎の再発を防ぐためにも、低脂肪・高消化性のフードを選び、獣医師と相談しながら食事を調整していくことが大切です。
膵炎は早期発見・早期治療が重要な病気です。愛犬・愛猫の様子に少しでも気になる変化があれば、お早めに当院までご相談ください。
また、膵臓の健康を支えるためには、腸内環境を整えることも重要です。腸の働きがスムーズになると、消化吸収の効率が上がり、免疫力の向上にもつながります。
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